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『今、家を建てるなら、未来の2030年基準!』

日本の住宅政策は、かつてない変革期に突入しています。その原動力となっているのは、「2050年カーボンニュートラル」という国家目標であり、国際社会への約束です。2025年4月、そして2030年の建築基準法改正は、単なる技術的な規制変更ではなく、現代の住宅に求められる価値、すなわち「良質な住宅」の定義そのものを根底から変えるものと言えます。

 

1、日本の住宅性能と国際比較

 

日本の住宅性能の向上は、国のエネルギー政策と気候変動対策の中心に位置づけられています。資源エネルギー庁の統計によれば、家庭部門は最終エネルギー消費全体の約15%を占めているためです。

家庭内でのエネルギー消費の内訳をみると、その大部分を占めるのが給湯(約29%)と暖房(約26%)であり、これらは住宅の断熱性能や設備の効率に直接的に左右される領域であり、住宅の断熱・気密性能を向上させることは、家庭からのCO2排出量を削減するための最も効果的な手段の一つとなります。

政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」達成、およびその中間目標である「2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)」という高い目標を達成するためには、この家庭部門における抜本的な対策が不可欠となっています。特に家庭部門には、2013年度比で66%という極めて野心的な削減目標が課せられており、住宅ストック全体の性能を飛躍的に向上させなければ到底達成不可能な数値なのです。

さらに、日本の省エネ基準が他の先進国に比べて著しく低水準であったという事実があります。欧米では、住宅の断熱性能はエネルギー安全保障と国民の健康を守るための基本的人権に近い概念として捉えられてきました。

例えば、2025年から義務化される基準(断熱等性能等級4)や、2030年に目標とされるZEH水準(同等級5)ですら、ドイツやフランスといった欧州諸国では、建築許可が下りないレベル、あるいは最低基準に過ぎないのです。

今回の法改正は、急激な規制強化というよりも、むしろ日本の住宅をようやく国際的な標準レベルへと引き上げるためのプロセスになります。

 

2、住宅政策と健康

 

高性能住宅への移行を後押しするもう一つの要因は、国民の健康における課題への対応があります。

その最たる例が「ヒートショック」です。暖かい居間から寒い脱衣所や浴室へ移動する際の急激な温度変化により血圧が激しく変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす現象です。年間死亡者数は、推計で約1万7000人から1万9000人にものぼり、これは交通事故による死亡者数をはるかに上回る深刻な問題となっているのです。

さらに、高気密住宅に計画的な換気システムを導入することは、花粉やPM2.5といったアレルゲンの室内への侵入を大幅に抑制します。これにより、アレルギー性鼻炎や気管支喘息、アトピー性皮膚炎などの症状が改善したという報告も多数あります。

このように、住宅の高性能化は単なる環境対策にとどまらず、国民の健康寿命を延伸し、増大する医療費を抑制するための、極めて効果的な「予防医療」として機能することがわかります。政府は、環境政策と公衆衛生政策を融合させ、住宅を通じて国民のQOL(生活の質)向上と社会保障負担の軽減を同時に実現しようとしてるのです。

3、規制強化のロードマップ

 

政策の根幹をなすのが、段階的な規制強化のロードマップです。

  • 2025年の義務化:2025年4月1日以降、改正建築基準法が施行され、原則としてすべての新築住宅・非住宅に対して、現行の省エネ基準(断熱等性能等級4、一次エネルギー消費量等級4に相当)への適合が義務付けられます。これまで義務化の対象外であった小規模な木造住宅も含まれるため、これは住宅市場全体に影響を及ぼす歴史的な転換点となります。
  • 2030年の目標:政府はさらにその先を見据えており、2030年度までには新築住宅の省エネ基準をZEH水準まで引き上げることを目標としています。これは、断熱等性能等級5、かつ、一次エネルギー消費量等級6の達成を意味し、実質的な次世代のスタンダードとなります。

これらの等級を判断する指標として、外皮平均熱貫流率(UA値)や設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で除したBEI(Building Energy Index)といった客観的な数値が用いられており、住宅の省エネ性能が明確に可視化され、評価される時代が到来するでしょう。

 

規制強化と同時に、政府は高性能住宅の取得を強力に後押しするための、手厚い優遇制度を整備しています。これらの制度は、性能が高い住宅ほどより多くの恩恵を受けられるように設計されており、市場を明確に高性能住宅へと誘導しているのです。

※最新の情報等はハウスメーカー、不動産業者等に確認をお願いします。

優遇措置の種類 制度名 対象住宅レベル 最大の恩恵・金額(2024-2025年入居) 主な要件
補助金 子育てエコホーム支援事業 長期優良住宅 100万円/戸 子育て・若者夫婦世帯
ZEH水準住宅 80万円/戸 子育て・若者夫婦世帯
住宅ローン減税 所得税・住民税の税額控除 長期優良住宅 借入限度額5,000万円(子育て世帯等) 控除期間13年
ZEH水準住宅 借入限度額4,500万円(子育て世帯等) 控除期間13年
省エネ基準適合住宅 借入限度額4,000万円(子育て世帯等) 控除期間13年
その他の新築住宅 0円(対象外)
固定金利ローン 【フラット35】S ZEH 当初5年間 年率▲0.75%の金利引き下げ 技術基準適合
税制 固定資産税の減額措置 新築の認定長期優良住宅 5年間(マンションは7年間)税額を1/2に減額 認定取得

 

4、未来基準を標準化するパワービルダー

 

年間数万戸という圧倒的な供給量を誇る飯田グループホールディングスやケイアイスター不動産といった業界の巨人は、2024年から2025年にかけて、自社が供給する新築分譲戸建住宅の全棟をZEH水準に適合させることを発表しました。これは、一部の高価格帯商品におけるオプションではなく、すべての住宅における「標準仕様」としての転換です。

彼らは、2030年に義務化される見込みの基準を5年以上も前倒しで自社のビジネスモデルの根幹に据えたのです。この動きは一部の企業にとどまらず、他の大手ハウスメーカーも軒並み90%を超える高いZEH普及率を達成しており、業界全体が急速に高性能化へと舵を切っていることを示しています。

 

パワービルダーたちが規制を先取りする背景には、極めて合理的な経営判断が存在します。

  • 競争優位性の確保:ZEH水準の住宅を標準とすることで、前述の補助金や住宅ローン減税といった政府の優遇措置を最大限に活用できます。これにより、購入者にとっての総取得コストを抑え、価格競争力を維持しつつ、より付加価値の高い商品を提供することが可能になるのです。
  • 事業効率の向上:数千、数万棟単位で住宅を供給する彼らにとって、仕様の標準化は生命線です。近い将来に陳腐化する低仕様の住宅と、未来の標準となる高性能住宅の二つの仕様を並行して管理・供給し続けることは、資材調達、設計、施工管理のすべてのプロセスにおいて非効率を生みます。未来の基準に一本化することで、スケールメリットを最大化し、サプライチェーン全体を最適化できるのです。
  • 資産価値の維持とブランド保護:2030年以降も市場で評価され、融資対象となりうる「未来を見据えた住宅」を供給することは、自社のブランド価値を守ると同時に、顧客の長期的な資産価値を保護することにも繋がります。これは、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要な戦略になるのです。

パワービルダーによるこの大胆な転換は、市場に決定的な影響を与えています。彼らがZEH水準を「当たり前」の仕様としたことで、それが事実上の市場標準となりつつあります。今や、地域の中小工務店は、自社の住宅がなぜこの新しい市場標準に達していないのかを顧客に説明する責任を負う立場に置かれています。これは、政府の規制スケジュールを上回る速さで、市場全体の変革を促す強力な原動力になっています。

 

5、未来の家を今日建てる!!

 

2025年4月以降に、最低限の省エネ基準(等級4)を満たして建てられた住宅は、わずか5年後の2030年には、新築が許可されない「基準不適合」のレベルとなってしまいます。これは、法的には「既存不適格建築物」という扱いにはならないものの、市場評価においては同様の烙印を押される可能性が高くなります。

このような「規制的陳腐化」のリスクを抱えた住宅は、将来の資産価値に大きなハンディキャップを負うことになります。中古住宅市場において、購入希望者はより性能の高い住宅を求めるようになり、金融機関もまた、将来の基準を満たさない物件への融資には慎重になるでしょう。日本の木造戸建住宅は、従来「築20〜22年で建物の価値はほぼゼロになる」と言われてきましたが、この陳腐化のスピードは、低性能な住宅において劇的に加速する可能性があるのです。その一方で、長期優良住宅やZEHといった高性能住宅は、その性能が客観的に評価されるため、資産価値を維持しやすいと言えるでしょう。

この状況に追い打ちをかけるのが、建設業界を取り巻く深刻なコスト上昇圧力です。

  • 人件費の高騰:2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用された「2024年問題」は、慢性的な人手不足と相まって、職人の人件費を構造的に押し上げています。
  • 資材価格の高止まり:ウッドショックやアイアンショックに端を発した資材価格の高騰は、円安による輸入コストの増加も加わり、いまだ収束の兆しを見せていません。

よって、建築コストは今後も上昇傾向が続くと考えるのが合理的で、先延ばしにすればするほど、同じ性能の家を建てるための費用が高くなる可能性があります。この事実と、現在提供されている手厚い補助金制度を勘案すれば、「2030年基準の住宅を、現在の補助金を活用して、今建てる」ことが、経済的にも最も賢明な選択なのではないでしょうか。

 

結論、『今、家を建てるなら、未来の2030年基準!』

 

日本の住宅政策の転換は、環境、健康、経済合理性という3つの強力な推進力に支えられた国家プロジェクトです。2025年の省エネ基準適合義務化は、この長い道のりの第一歩に過ぎず、真の目的地は2030年のZEH水準の標準化となります。

上記のように、厳格化される未来の規制、高性能住宅を明確に優遇する金融インセンティブ、市場をリードするパワービルダーの戦略的判断、そして、建設コストの上昇という四重の圧力は、もはや「待つ」という選択肢を無意味なものにするでしょう。

2025年の最低基準をクリアするだけの住宅は、建てた瞬間から陳腐化が始まる「期限付きの資産」となり兼ねません。一方で、2030年のZEH基準は、長期的な経済性、健康的な暮らし、そして確かな資産価値を約束してくれます。

『今、家を建てるなら、未来の2030年基準!』これしかないでしょう!!

 

ご参考まで。

 

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